井上 平太 院長
HYOTA INOUE
高度医療、難症例の外科手術を経て、『家庭医のエキスパート』として一般診療や慢性疾患に力を入れる
東京大学農学部獣医学科大学院研究生修了後、都内の大規模動物病院で診療。外科手術を中心にスキルを磨き、「井上動物病院」を開業。その他、植物中毒の研究や、ペット健康相談Q&Aサイト「だいじょうぶ?マイペット」にて回答をする。
井上 平太 院長
井上動物病院
上尾市/小泉/上尾駅
- ●犬
- ●猫
- ●ハムスター
- ●フェレット
- ●ウサギ
- ●その他
往診に来てくれた獣医師さんの対応をきっかけに
獣医師を志したきっかけは、往診に来てくれた獣医師の存在が大きかったと思います。子どもの頃に飼っていた愛犬が体調を崩したときに、往診に来た獣医師さんがお忙しいにもかかわらず1時間くらいかけて丁寧に話を聞いて、いろいろな質問にも嫌がることなく1つずつ答えてくれたのです。中学生くらいの時には動物園や動物に関わる仕事に就きたいと思っていて、高校入学時はすでに獣医師になろうと決めていました。逆にいうと動物以外の職業を意識したことがなかったともいえます。北里大学獣医内科教室、同大学の大学院を卒業後は、内科の教授に「開業するなら外科の勉強をするといいよ」と言われたので、東京大学獣医外科学教室の大学院へ進学して、研究生として2年間、外来の診察手術をしながら外科を専門に勉強しました。その後は葛飾区にある大規模な動物病院で2年間勤めていたのですが、獣医師が5名いて30年以上前でいえば大きな病院ともいえます。その後、上尾市郊外の住宅街に『井上動物病院』を開業しました。出身は池袋ですが、小学5年生から上尾に住んで思春期を過ごした場所なので馴染みがあり、交友関係が広くあります。
外科手術の経験豊富、難症例も対応可能
当院では『家庭医のエキスパート』として、一般診療や慢性疾患をしっかり診察することを主としています。必要に応じてこの病気なら大学病院へ、所沢、川口などにある専門医をご紹介しています。「半径一キロ圏内にいる動物たちを幸せにするには何をするのがいいのか?」と考えた結果、自分が高度医療をするのではなく、一般診療で治療をして診断をして見極めていくことが地域の動物の幸せであり、飼い主さんの幸せにつながると思ったのです。
だからといってオペができないわけでなく、若い頃は大学病院の外科で難しい症例も様々と経験して、都内の大病院に勤めたことから高度医療を知っています。自分一人でできないような大きな手術がある時には、夜8時頃に獣医師仲間で集まって手術をすることも。幅広く何でも手がけているので、車がなくて大きな病院へ行けない患者さんにも喜ばれています。私はもともと腫瘍外科を専門としていて、骨折系統、泌尿器系、軟部外科、腹腔内の損傷といった外科手術も経験豊富で得意としています。勤務医時代には犬の頭蓋骨の骨折、頭部の出血治療をして、獣医麻酔外科学会で発表しました。
日々の診療では、薬の服用や入院の必要性について臨機応変に対応することが大切だと感じます。たとえば、預かる方が安静にできる子、預かると暴れてしまう子、鎮痛剤を使うことでかえって暴れてしまってうまく傷が治らない、骨がつながらないというケースもあるのです。さらに入院する方が早く治るかもしれないけれど食べるはずのものを食べず、入院することで点滴の期間が長くなってしまうことも……。ですから、よく動物をみて日々勉強して、飼い主さんの仰ることにもよく耳を傾けるようにしています。
ペットや飼い主さんの幸せにつながる診療を
診療する際は『本当に飼い主さんの幸せにつながるのかどうか?患者である動物が幸せになるのかどうか?』を常に問いかけています。特に飼い主さんにとって何が幸せに結びつくのか?を考えているので、最期は病院で亡くなるのではなく、飼い主さんの元で亡くなって抱きしめてあげられるような診断や治療を重視しています。ですから、入院中に容態が悪化している場合は抱え込んでしまわずに、どこかでお返ししなければならないと思っています。一方でお返ししたことで匙を投げられたと思うこともあるようで、飼い主さんによっては「こんなにがんばってきたのに最後は当院ではなく近所の病院へ行かせた」と誤解されることも。さらに病院で亡くなってしまうこともあって、「どうして最期は自分の腕の中で死なせてくれなかったんだ」と飼い主さんに言われてしまうこともあります。二次診療をすぐに紹介するのがベストとも限らないと思うこともあり、獣医師を続けて60歳になった今でも非常に難しいことだと感じています。
ペットと今まで楽しく暮らしていても、最期の2〜3ヶ月間は苦しんでいようが口をこじあけて、押さえつけてでも注射をして数ヶ月寿命を延ばしていくことも……。動物たちはしゃべれないので、うちの飼い主は痛くて苦しいことばかりしたと言えません。しかし、そうならないように診察していくことを考えていますが、実行するのはなかなか難しいのです。どのように最期を迎えるのか?という選択肢は飼い主さんによって異なり、最後の最後までしっかり前を向いて、最期は倒れていくのがいいという方もいます。「もっとやってあげればよかったと」「もっと早くに執着せず、その子の魂を手放してあげればよかった」と、どちらにしろ飼い主さんは後悔することの方が多いものです。
ペットに危険な植物について情報発信をする
私のライフワークとして、植物中毒の研究をしています。毒草を育ててみたり、かじったり舐めてみたりして、かなり詳しく勉強して実践をしています。この知識を活かしてペット健康相談サイト上で質問に回答したり、何をどのくらい食べると害があるのか、誰もが知らないけれどこれは毒草なんだよ、といった情報も発信したりしています。植物中毒については当院のホームページにもかなり多くのコンテンツを載せて解説しているので、獣医師や専門家の方からも「拝見しました、助かりました」など声をいただくこともあるんです。こうした活動の背景には、ある飼い主さんのワンちゃんが「グロリオサ」という花の球根を食べて亡くなったことも関係しています。かがり火みたいなきれいな花が咲くのですが、玄関先に置いていた球根を食べてしまったのです。その球根はよく花屋さんやホームセンターでも普通に売られていて、人間でも小指1本分食べると死亡しますが、猛毒であることは意外と知られていません。結局、その飼い主さんはペットロスになって終わるのではなく、その失敗を糧に当院のホームページを見て詳しく勉強して、近所の保健所などに「植物中毒は怖い」と情報発信しながら社会貢献をしています。彼の行動には感銘を受けましたね。現在でも密に連絡を取り合って、私も情報発信のお手伝いをしています。
これから受診される飼い主さんへ
飼っているワンちゃんにはお手やお座りを教えるだけでなく、是非とも「お薬を飲むこと」もおしえてください。うちの子は食いしん坊だから食べ物に混ぜれば食べちゃうと思うかもしれませんが、中高年になって慢性病になると基本食欲がありません。そのような時に口を開けて薬を飲ませようとすると噛まれてしまうことも少なくないのです。いざ病気にかかった時に薬を飲めるよう、若いうちからドッグフード1粒でもいいから舌の奥に入れたら食べるもんなんだと訓練するといいですね。口の中に指を入れて薬を飲ませられるようにすると、将来良かったなと実感すると思います。
※上記記事は2022年11月に取材したものです。
時間の経過による変化があることをご了承ください。
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